新島襄の生涯
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1.同志社英学校の設立 今やわが国は社会の秩序が破れ、規律が乱れ、人心は向かうべき方向が分からない状態である。輝くような文化の光を今日の日本に実現しようと思えば、どうしても欧米文化の根本である教育に力を注がねばならない。思うにわが三千余万の同胞の安全と危険、不幸と幸福とは、単に政治の改良によるのではなく、また物質的文明の進歩によるのでもなく、まさにもっぱら国民を教化する力しだいであることを確信する。( 2.キリスト教に基づく徳育( ((その目的はただ単に普通の英学を教えるだけでなく、徳性を磨き、品性を高尚にし、精神を正しく強めるように努め、ただ技術や才能のある人物を育成するだけでなく、いわゆる 良心を手腕に運用する人物」を生み出すことに努めてきた。しかもこのような教育は、一方に片寄った知育だけでは決して達成できるものではない。またすでに人心を捉える力を失っている儒教主義が行えることでもない。( それはただ神を信じ、真理を愛し、他者に対する思いやりの情に厚いキリスト教の道徳によらなければならないと信じて、キリスト教主義を徳育の基本とした。( 3.私立大学の目的( ((教育事業をことごとく政府の手に任せてしまうのが得策であるとは私たちは思わない。仮にも国民たる者が自分の子どもを教育するのは、まことに国民の義務であり、決して避けてはいけないことであると信じる。そして国民が自ら手をくだして〔私学〕教育を行うならば、それは国民としての義務を果たすだけでなく、その事業は親切に安価に活発にそして周到に行われて、行き届くはずである。このことは、 自分のことは自分で行う」という原則に照らして見れば明白であり、決して疑ってはならない。 4.私立大学の特性( 政府の手で設立された大学が実に有益なのは疑いない。けれども国民の手で設立された〔私立〕大学が、まことに大きな感化を国民に与えることも事実である。もとより資金の多さや施設が完備している点から見れば、私立は国立とは比較しようがない。けれども学生が自分独自の気質を発揮し、自治、自立の国民を養成する点は、これこそ私立大学が持っている特性であり長所である、と付録)2.(同志社大学設立の旨意」1888(年(11(月

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