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同志社一貫教育探求センター対談 第3弾 (2024年3月11日撮影)

2024年10月1日

 同志社一貫教育における英語教育 ~ そのメリットと可能性 ~ 

幼稚園から小学校・中学校・高等学校、大学、大学院までを設置している学校法人同志社。そこでは一貫教育校ならではの特色ある教育が行われています。今回は英語教育にスポットを当て、一貫教育校ならではの取り組みやメリット、可能性などについて、現場で英語教育に携わる3名の教員にお話を伺いました。

  • 左)司会/反田 任 教諭(元同志社中学校・高等学校(現 瀬戸SOLAN学園初等部教諭))
  • 中央左) 中田 賀之 教授(同志社大学グローバル・コミュニケーション学部)
  • 中央右) Devin Rooney JIMMINK 教諭(同志社国際中学校・高等学校)
  • 右)   振本 ありさ 教諭(同志社小学校 英語専科)

各校における英語教育の特色や取り組み

反田 小学校の段階では英語教育の重要性、中学校・高等学校になるとその先へと続く展開などが必要になるかと思いますが、それぞれどのような特色があり、どのような取り組みが行われているのでしょうか。

振本 初等教育における英語教育として、まず学びの土台づくりとなる授業を行っています。外国ってどんなところかな? 外国の人はどんな言葉を話すのかな? どんな暮らしをしているのかな? たくさんの体験学習を展開することで、単に言語を学ぶだけではない、外国の文化や人とのつながりなど、児童が「もっと学びたい」と思う動機づけになればと考えています。また、同志社大学に留学している留学生がたくさん本校に来てくださいます。お客さんというより新しいお友だちという感覚で、同志社大学で学ぶ外国人のお兄さんお姉さんたちと一緒に楽しく過ごす体験学習は、一貫教育だからできる学びだと思っています。

JIMMINK 同志社国際中学校・高等学校は、もともと帰国子女の受け入れ校として設立されており、在籍する生徒の英語レベルは実にさまざまです。そのため、中学では6レベル、高校では4レベルに分けた習熟度別授業を行っています。どの生徒も快適に勉強できるよう、きめ細かな学習環境を作るようにしています。同志社の英語教育の大きな特長のひとつとして、各学校にネイティブの教員が在籍しています。もちろん、同志社国際中学校・高等学校も同様です。専任と非常勤合わせて15~16人の教員が働いています。

反田 ネイティブの先生は、コミュニケーション、英語力の向上にポイントを置いて授業をされているようですね。同志社の場合、小学校、中学校、高等学校と学んで、同志社大学に学内推薦で進学する生徒が多いのですが、大学推薦までにどのような英語力を身に付けておく必要があるのでしょう。

中田 同志社大学は非常に大きな大学で、14学部とさまざまな学部があります。それぞれに育てたい人物像があり、身に付けたい英語力というものもあるでしょう。ですが、あえて学部に関係なく目安を挙げるなら、TOEIC600点、英検2級レベルであれば英語の中心的なレベルの部分が固まっているので、それぞれの学部で伸ばしていくことが可能ではないかと思います。ただ、外国語運用能力は多面的でテストで計れるものではありません。英語のこの側面は得意、こんな場面で英語を使ってこんなことができる、また将来、英語を使ってこんなふうになりたい。そうした点数には現れないさまざまな側面を測定する「ヨーロッパ言語共通参照枠」という国際標準規格に基づいて、具体的な場面での運用能力や興味を重視していきたいと考えています。大学としては、学びの質や経験などに目を向けて教育に取り組み、長期的に英語を学び続けていける、そういった資質のある人物を育てていきたいですね。

英語教育を行う上で意識していること

反田 同志社の英語教育を行う上で、どのようなことを意識されていますか?

振本 同志社の創立者である新島襄先生のことを、子どもたちによく聞かれます。多くの人に助けられ、つながり、やがて同志社をつくった新島襄先生の生き方に、子どもたちは強い憧れを持っています。いつか新島襄先生みたいに世界で活躍できたらな、と子どもたちが思っていることを受け止め、グローバルな人物育成へつながっていくことを授業の中で常に意識しています。

JIMMINK 外国語として学ぶだけでなく、豊かな想像力と思考力を養い、クリティカルシンキングやディスカッションを通して新しい発見ができる授業を心掛けています。そして社会問題や世界情勢を見て、厳しい状況に置かれている人々に対して共感=シンパシーを感じるだけではなく、自分はどう思うか、どう感じるかという感情移入=エンパシーができる生徒を育てていきたいと考えています。

中田 世界に通じる運用能力の基準という理論に立脚しつつ、同志社大学の教育理念に添った人物の育成を考慮しながら、シラバスづくりや授業づくりを行っています。ITの重要性が叫ばれ、理解や実践力を高める必要はありますが、数字では測ることのできない、正解、不正解という単純な枠組みでは捉えられない、学生の感性を大切にした授業を心掛けたいと思っています。

一貫校における英語教育のメリットとは

反田 まず、一貫教育の中で培われるべき英語のスキルや能力、それと受験のための英語との違いについて、どのようにお考えでしょうか。

中田 同志社全体として共通する教育理念があるのはとても大事なことだと思っています。共通の教育理念に基づいて、どのような人物を育てたいのか、全体として共有する部分と各学校の独自性を打ち出す部分の両方を打ち出せるのは大きなメリットです。一貫教育で養われるべき英語能力も、どういう目的のために英語を使い、どのようなことができる人物を育てるのかということ。そこには目に見えるスキルだけでなく、相手への思いやりとか異文化理解、自身の内省ができるか、そして社会に貢献しようとする態度の涵養などが含まれます。一貫教育校では長期的な人物育成ができるという点において、目の前の受験に注力しなければならない受験英語とは異なってくるのだと思いますね。

JIMMINK 受験のための英語学習では、コミュニケーション道具としての学びはできないかもしれません。受験がない一貫教育校であれば、コミュニケーションや思考力、論理力を養うことに集中できます。また、国際学院や同志社小学校で行っている英語教育を継続できる点も素晴らしいこと。英語の授業に社会問題やサイエンスの話題などさまざまなことを題材として取り入れ、それらの知識を英語で得るということもできるだけ継続するようにしています。

振本 言葉をたくさん覚えることができたら、もっと世界のいろいろな人とお話をすることができ、自分の思いを伝えることができるんじゃないか。本来、言葉を覚えるというのは、そこが目的なのではないかと思います。小学校で、自分で学ぶ楽しさを見つけて、もっと学びを探求したいと思ったときに、次のステップとして中学・高校があり、大学・大学院がある。同志社にはのびのびと学びを続けられる素敵な学習環境があると思っています。英語を超えて、次の言語を学びながら世界へ羽ばたいていこうとしている卒業生の姿を見ると、同志社ならではのグローバルな人物を育てているんだと実感してうれしくなります。

反田 単語や文法をどれだけ知っているかということより、自分自身の考えや思いをどのように英語で表現して相手と関わっていくのかというところを、それぞれの学校で大事にされているのですね。

英語を通じた学内交流とその効果

反田 次に、同志社の学内で行われる英語を通じた交流の良い点や効果について教えていただけますか。

振本 同志社では年に2回、英語大会が開催されています。小学校では、これからもっと自由に英語を使ってみたいなという最初のステップとして、4、5、6年生が同志社英語大会-立石杯-Recitation & Speech Contestと同志社英語プレゼンテーション大会-立石杯-Presentation Contestに出場させていただいています。会場では本校の卒業生が中高の部で出場していることもあり、子どもたちは憧れのまなざしで見ています。こんなふうに英語を話せるようになりたいなと憧れるお兄さんお姉さんがいるというのも、同志社ならではだと思っています。

JIMMINK 国際中学校・高等学校の場合は、すでに英語を話せる生徒がたくさんいますが、それだけでは最優秀賞を取ることはできません。それを実感させるためにも、この英語大会(同志社英語大会-立石杯-、同志社英語プレゼンテーション大会-立石杯-)への参加は貴重な経験になっています。同志社内のほかの中学・高校の生徒たちとの交流の場にもなっています。また、姉妹校である米国カリフォルニア州のヌエバスクールへの短期留学プログラムでは、現地でのホームステイなどを通して、コミュニケーション力や異文化理解の醸成に役立っています。

中田 グローバル・コミュニケーション学部の教職課程には、かつてこの英語大会に参加したことが英語学習に励む動機づけになったという学生が在籍しています。英語大会では、小学生は聴衆に伝わること、中学生は聴衆とコミュニケーションがとれること、高校生は自身のメッセージを聴衆に理解してもらい、考えてもらうこと。それぞれの次元で目指すべき目標が共有でき、貴重な体系的な学びの機会であると考えています。大学や社会人になってからの目標も、それによって考えやすくなるのではないかと思います。

反田 同志社がこの10数年取り組んできた同志社英語大会-立石杯-、同志社英語プレゼンテーション大会-立石杯-が、各学校や小中高大ぞれぞれの段階における「英語学習のモチベーション」につながっているのですね。

同志社における英語教育のこれから

反田 これからの同志社の英語教育について、ICTの活用なども含めてどのような教育が必要だとお考えでしょうか。

振本 これからの学び方は本当に多様だと思います。ICTを活用した授業、友だちや教員と対面で学び合う授業など、バランスを考えていかないといけません。教科書はQRコードが付いたデジタル教科書になり、すぐに発信したいことやすぐに聞きたいことは、iPadやパソコンを開いて情報を交換し合う。知る情報の範囲も広がってきています。そうした教育環境の中で、自分が得意な部分や学びたい部分を自分でつかんで探求していける。そのような児童を中学、高校、大学に送り出していきたいと思っています。

JIMMINK 生徒の多くが、自分の動画をSNSにアップして発信している時代です。そうした動画づくりや、自分の思いを正しく責任を持って発信することは、英語の授業の中でも学びのひとつにできるかもしれません。また、単語や文法を覚えるなど生徒が負担と思いがちなことは、ゲームやクイズ形式にして楽しくすることはできるはず。ICTを取り入れることで教員の負担もどんどん軽減して、よりきめ細かく個性豊かな教材づくりもできるのではないでしょうか。

反田 私は授業で、発音をAIでチェックするアプリを使っています。発音の正誤を音素ごとにチェックしてフィードバックしてくれるものです。一人の英語教員がクラスの生徒一人ひとりをチェックするのは大変です。こうしたアプリを使いながら子どもたちの英語力、発音力を向上させるという手立てが、ICTの可能性としてあるのではないかと考えています。また書く力の向上にも活用できます。テーマに沿って書いた英語の文章を発音チェックアプリに入れて、自分の発音をチェックする。さらにオンライン英会話で、自分の作った文章に基づいて考えを述べ、それに対してディスカッションしていく。こうした一連の流れがICTの活用によって可能になってくるのではないでしょうか。個別最適化、そして多様な学びについて、同志社の英語教育も最先端のテクノロジーを取り入れながら実践していけるといいですね。最後に、大学の英語教育に対しては、どのような教育が必要となるのかをお伺いしたいと思います。

中田 学生たちがアクセスするようになった生成AIや翻訳機器などのツール。実社会に出るとそれらのツールを使って仕事をすることになるでしょう。しかしながら一定の英語力を保持していないと、それらを十分に活用することができません。大学では、この両方を押さえた教育が必要だろうと考えています。教育実習に行った学生の一人は、生徒に自分の力で英文を書かせて、修正の段階で生成AIを使用し、どこがおかしかったかを理解することで英語力を高めるという取り組みをしていました。気づきを高めることが生成AI利用の目的です。私自身は英語教育を専門とする研究者ですが、生成AIを利用するという認識は英語教育分野でも結構広まってきております。十分な議論無しに闇雲に利用を禁止するというよりも、むしろ英語教育でどのように生成AIを活用することが実際に使える英語力の涵養につながるのかを考える段階に既に入っていると言えます。

反田 生成AIのメリット、デメリットを考えながら活用していくことで、一貫教育ならではの特長を生かした英語教育の可能性も広がっていきそうですね。 3人の先生方、本日はありがとうございました。


対談動画は『同志社一貫教育探求センター対談 第3弾 【vol.1】~【vol.3】』のページよりご視聴ください。