同志社で出会い、受けた、「良心教育」を生き方の指針に
同志社女子中学校・高等学校で心と体の大切な成長期を過ごされた河本宏子氏(同志社大学文学部卒業、元ANA総合研究所会長)、安久詩乃氏(同志社大学心理学部卒業、株式会社堀場製作所勤務:アーチェリーワールドカップパリ大会2022優勝選手)に、在校当時の思い出や現在へつながるエピソード、その後の生き方への影響など、同志社一貫教育から生まれたさまざまなお話を中村久美子同志社女子中学校・高等学校校長が伺いました。
同志社らしいエピソードとは
──お二人は中学・高校の6年間を同志社女子中学校・高等学校で過ごされました。同志社らしいなと感じられたエピソードはありますか?
河本 とても印象深かったのは、入学式のときに教科書と一緒に1冊の聖書と賛美歌を渡されたことです。そして毎朝の礼拝。キリスト教主義に基づく教育をされている学校に入ったんだなという実感が湧いてきました。キリスト教に対する理解はこの6年間で確かに深まったのだと思います。
安久 私は、初めて教室に入ったときに「誰も制服を着ていない」ということにとても驚いたことを覚えています。分かってはいても、中学生になると制服を着るという思い込みがあったのでしょうね。着たい服を着て、自分らしく縛られない姿で日常を過ごしたり、自分とは違う価値観や境遇を持つ友人を理解したりする。中学生のときからそれを当たり前のことと捉えられる環境にいたことは、本当に特別で素敵なことだったのですね。
河本 毎朝賛美歌を歌い、聖書を読み、先生方のお話を聞く。礼拝から始まる一日を重ねた6年間は、今でも自分の中に残っています。ANAで客室乗務員をしていた頃、自分たちのサービスについて、「小さなことほど丁寧に、当たり前のことほど真剣に」という言葉を使っていました。これをサービスのスピリットにしましょうと。そのとき、聖書の1節である「小事に忠実な人は、大事にも忠実である※1」という言葉を思い出していたんですね。このことだけでなく、聖書に書かれた言葉というのは社会に出てからも何か通ずるものがあるんだなと、いろいろな場面で感じることがありました。
安久 私が大切にしている言葉は、「置かれた場所で咲きなさい※2」です。私は今、社会人アスリートとして活動していますが、仕事と両立させようと思うとなかなか練習時間を確保できません。でも、自分が選んだ道ですから、できることを精一杯やって、ここで大きな花を咲かせたいなと聖書の言葉から学んでいます。
自主自立、そして社会人として
──卒業し、社会に出てから感じた同志社の良さや強みというのはどのようなことなのでしょう。また、それは社会人としてどのように生かされているのでしょうか?
河本 先ほど安久さんもおっしゃっていましたけれど、制服がなく私服だったということに象徴されるように、「自分たちで選んで、決めて、やるんだ」という自主自立の精神を学んだことは大きかったように思います。自分で決めて行動するということは、大人になってからもなかなかできないこともありますが、その原点というか、常に立ち返る場所を持っていることが、生きる上での大きな力になっているのだと思いますね。
安久 中学・高校時代、先生方が生徒と近い距離で対等に話してくださいました。悩んだり困ったりしているときも親身に話を聞いてくださって、きちんと解決の道筋を示してくださったのはとてもうれしかったです。一人ひとりとしっかり対話することの大切さをこのとき学びました。周りの人になかなか頼ることができない若者が多いといわれますが、必要なときに人に頼ること、そして人に頼ってもらえる、そんな対話の重要性を知っていることが今、社会人として生活を送る上で活きています。
河本 いくつかの企業で経営にもかかわるようになりました。そこでは、ビジョンを共有することがすごく大事なんですね。何のために自分たちがここに存在しているのか、この仲間はどうしてここに集まっているのか。そう考えたときに、ビジョンを共有する、つまり「志」を共にして組織を運営していくこと、そしてその一員であることを自覚して役割を果たしていくことが大切です。それを私は同志社で学びました。学内に「良心之全身ニ充満シタル丈夫ノ起リ来ラン事ヲ(良心の全身に充満したる丈夫(ますらお)の起り来(きた)らん事を)」という碑があります。企業でキャリアを重ねていく中で、そういう気持ちを持った人たちをひとつに束ねていくことでその企業は強くなっていくのだなと感じ、校祖である新島先生の思いをよく思い返しておりました。
同志社の一貫教育に学んだこと
──お二人は一貫教育校のご出身です。一貫教育ならではの良さというものについて、どのようにお考えですか?
安久 中高合同でクラブ活動ができることですね。中学1年生から高校3年生まで年齢の離れた生徒が共に活動します。人数の多いクラブ活動の中でいかに円滑にクラブを運営していくか、その中でどのようにして競技力を向上させていくのか。また、自分のやるべき役割は何か。顧問の先生やコーチ、同級生、ときには卒業したOGの力を借りて、チームの目標に向けた道筋を立てていく力を身につけることができたのではないかと考えています。
河本 自分の学びのために時間を使えることです。本を読んだり、音楽に親しんだり、安久さんのようにスポーツにも打ち込めます。受験を気にせず好きなことに費やす6年間は、振り返れば、人格形成にも大きく影響したように思います。大学進学時には受験をしていないことで知識不足ではないかと不安もありましたが、むしろ自分で自分の時間を使うことで身についた「自分で自分をマネジメントする」スタイルは、大学生から社会人になっても役立ちました。
安久 実は私はずっと英語が苦手で、大学入学後も苦労しました。でも大学では、自分で情報を集めて調べてクラスでプレゼンするというような授業が多く、大学ではすごく褒められました。中学・高校のときに調べ学習をして発表する授業が多かったおかげですね。
河本 英語といえば、今では珍しくもないのでしょうけれど、私が入学したときにはすでに中学にネイティブの先生がいらっしゃって驚きました。同志社の教育理念のひとつである「国際主義」の象徴なのでしょう。言語力だけではなく文化を学んだように思います。そうしたグローバル教育もそうですし、一人ひとりの違いや人格を理解し尊重するというダイバーシティの考え方を、中学・高校を通して学ばせてもらったんだなと思っています。先ほどの中高合同のクラブ活動というのも、いろいろな年齢の交わりの中で助け合い、学び合うことの実践ですね。
安久 一貫教育のメリットは、クラスメイトやクラブ活動の仲間との結びつきの深さです。お互いに最もいろいろなことを吸収して成長していく時期を共にした友人です。仕事や進んだフィールドは違っても、前向きに取り組む姿勢にすごく刺激をもらっています。本当に宝物です。
河本 そうですね。中学・高校で6年間、大学まで含めると10年間に渡って築いた交友関係は今も続いており、自分にとって大きな財産になっています。友人だけでなくそのご家族、先輩・後輩も含めた幅広い交流が今も続いており、同志社ファミリーのようなつながりが生まれることもひとつの特徴かもしれませんね。
良心教育を、今後の豊かな人生に
──同志社での学びや経験を糧にどう生きていくか、今後の人生の目標を教えてください。
河本 昨年、ANAグループを退職しました。自分の人生の約3分の2を過ごしてきた会社です。ひとつの山を登って降りたのかなという気持ちです。でもそこで終わりではなく、また新しい山登りを楽しむぞという気持ちでおります。それがこれからの自分の人生の旅であり、その旅の中で自分自身のウェルビーイングを追いかけながら、心豊かな人生を過ごしたいなと思っております。
安久 私の人生の目標は「応援される人になる」ことです。私にとっての応援される人とは、自分自身のために力を発揮するのではなく、身につけた力を生かして周りの人々に奉仕できる人だと思っています。「あなたがたは地の塩である※3」、「あなたがたは世の光である※4」という聖書の1節に由来します。私を知って応援してくださる方に恥じないよう、応援してくださるたくさんの方々を感動させることのできるプレーをお届けしていきたいです。
河本 同志社の良心教育というのは、もちろん人のためにということもあるのでしょうけれど、誰かのために私は何かをしてあげたということより、常に誰かに見られている中で自分がどういう自分でいられるかという対話が大事なのではないかと考えています。自分がどう生きるかという、まさに「生きざま」ですね。そこに立ち返る原点として良心教育がある。それを心に留めながら生きていきたいですね。
- ※1 新約聖書・ルカによる福音書16章10節-13節
- ※2 新約聖書・コリントの信徒への手紙7章17節(ランボルド・二ーバーの祈りより)
- ※3 新約聖書・マタイによる福音書5章13節
- ※4 新約聖書・マタイによる福音書5章14節
対談動画は『同志社一貫教育探求センター対談 第2弾 【vol.1】~【vol.5】』のページよりご視聴ください。